第2章 出会い
「天兄上。龍姫が病弱なのは昔からだよ。兄上達が心配することない。龍姫にだって思うところはあるし。それに、実は龍姫、好きな奴いるんだぜ?」
峰龍は、何も言えなくなった龍姫に変わって話し始めた。しかし、そのことはまだ誰も知ることのなかったことだったのだ。
「何!?」
「峰龍!!」
顔を真っ赤にしている龍姫と口をあけたままの柾天の顔を峰龍は交互に見合わせていた。
「どういうことだ。その男は一体」
〈ドタドタッ、ドタドタッ〉
柾天が峰龍を問い詰めようとしていたそのとき、廊下を騒々しく歩いてくる音が聞こえた。その音は、彼がやってきたということを知らせる音であった。
「桂!!」
「お!やっぱりここにいたか。龍、峰、昨日ぶりだな。天、さっきぶり。」
ニッコリと歯を見せながら笑う豪快な『桂』と呼ばれたその男性は、『井ノ川 桂樹(いのかわ けいじゅ)』という柾天の幼馴染であり、現在の同僚でもある。まぁ、部署は違うのだが・・・。
「桂樹様。こんにちは」
「おぅ。龍、今日は顔色がいいな。なにかいいことでもあったか?」
ニコニコと笑いながら龍姫の頭を撫でていた。
「桂、何のようだ。うちの妹に気安く触れるな。」
龍姫の頭を撫でていた手をはたきながら柾天は桂樹をにらみつけた。その柾天に臆することなく桂樹の笑顔は消えなかた。
「そう怒るな。今日はちゃんとした理由があるんだ。」
「理由?」
「お前の親父殿から今日の夜間警護は別のものが代わりに行うとのことだ。お前は、今夜龍を連れて陛下のとこに行けと」
話し始めると桂樹の顔からは笑顔が消えた。桂樹の顔から笑顔が消えるときは、真剣なときだということを全員が知っていた。それも、重要な話である。そのこともあり、少し明るくなっていた空気がまたしても暗くなっていった。そんな桂樹の様子に柾天も真剣にならざるを得なかった。
「陛下のとこへ?龍姫を連れて?」
「あぁ。まだ正式に決まった訳ではないが、龍姫と東宮の見合いのようなものだそうだぞ。陛下からの要望だそうだ。丁度、東宮は龍姫と同じ年だし家柄もよい、それにこの間の春の宴のときの琴の音も気にいられたそうだ。」
「・・・。」