第1章 ミセバヤ
私はしゃべれないように抱きしめられる。仁王君に背中を向ける形の私は幸村君の顔も仁王の顔も見えない。ただ気が付いたのは、幸村君バリ楽しそう。
「そいつと俺は・・・」
「そいつ?夏帆に失礼だろ。彼女には鷹鴇夏帆という名前があるんだぞ」
「そんなこと言われんでもわかっとる!!」
「じゃぁ、何故名前を呼んであげないんだい?彼女がそのことでどんだけ傷ついていたかお前は知っているの?彼女が泣いているのを見たことがあるの?」
「夏帆を離しんしゃい。」
「答えろ。仁王。お前は夏帆をどうしたいんだ。そうじゃないと俺は夏帆を離さない。おさえられないのはお前だけじゃないんだからね。」
最後に行った幸村君の言葉は聞き取れなかった。彼の腕が耳を覆ったからだ。すぐに外れたが。
「幸村、冗談じゃろ?」
「この状況でそんなこと言うと思うの?」
なにこの緊迫状態。やめてほしい。今の一瞬で何があった。