第14章 僕のストーカー(逢坂紘夢)
「やぁ、逢坂くん。随分可愛らしいランチセットだね。妹の物を間違えて持ってきてしまったのかな?」
同じクラスの鳴海雅人がニヤニヤして声をかけてきた。
「僕に妹なんていないよ」
「ははは、知っているよ。それは神田さんが作ってくれたんだろう?
昨日、演劇部の部室で『先輩にお弁当作るんだ』って女の子同士でワイワイ話していたからね」
そういえば、演劇部だって言ってたっけ。あの子。
「知っているならまどろっこしいこと言わないでくれよ。
というより、どうして止めてくれなかったんだよ」
おかげで僕は、朝の廊下で晒し者だよ…。
「僕が女の子の楽しい会話に水をさせると思うかい? それに神田さんの料理はとても美味しいだろう?
僕も演劇部に差し入れで料理やお菓子を何度かもらったことがあるんだ。もっともそれは僕のためではなく部員全員のための差し入れだよ。
まったく逢坂くんがうらやましいよ」
鳴海が軽口を叩く。
「ふん、他人事だと思って。でもちょうどよかった。部活で会うなら、これをあの子に返しておいてくれないか?」
僕は空になった弁当包みを鳴海に差し出す。
「それはかまわないけど…。君、これをそのまま返すつもりかい?」
「…? そのまま返したら駄目なのか?」
「駄目だよ。直接返さないならなおさら。何かメモでいいから手紙でも付けてあげたらどうかな。『ありがとう』とか『美味しかった』とかでいいからさ」
「なるほど…。でもメモ用紙なんて持ってないな…」
「なんでもいいんだよ。ノートを破ったり」
「ノートを破るなんて嫌だよ」
「仕方ないな。僕のを一枚分けてあげるよ」
「持っているのなら早く出してくれよ…」