第14章 僕のストーカー(逢坂紘夢)
「ちょ…ちょっと落ち着いて君。何かの間違いじゃないのかな…」
「間違えるわけがないです!こんな大事なこと」
…まぁそうか。
「私、演劇部の部室に置いてあった去年の文芸誌で先輩の短編を読みました。片思いがリアルに綴られていて…。私、とても共感しました」
そりゃリアルだろう。
リアルな片思いを綴ったんだから。
君に共感してもらうために書いたわけじゃないけど。
「私、こんな素敵な文章を書く人はどんな人なんだろうって…。先輩のこといろいろ調べて…ずっと影から見てました」
なんか気持ち悪!
「それで…やっぱり素敵な人だなぁって。それで…見ているだけじゃなくて…この思いをどうしても伝えたくなって…
あの…迷惑でしょうか…?」
……。
迷惑といえば迷惑。
でもこの子、なんかややこしそうな子だし、むげにして反感買われてストーカーにでもなられたら困るな…。
僕はニッコリ微笑む。
「迷惑だなんて、そんなことはないよ。僕にも経験あるけど恋をする気持ちというものは止めようとして止められるものではないし…。
ただ…ただね。僕には他に好きな人がいるんだ。君が読んで共感してくれたっていう短編…。あれはその気持ちを綴ったものなんだ。
だからごめんね。君の気持ちには答えられない」
その子は胸の前でぎゅっと手を握り、僕の話を聞いた。
僕の目を見つめて。真剣に。
僕の話をこんなにきちんと聞いてくれる子っているんだな、と少し思った。
「その方とはまだお付き合いされているわけではないんですよね…?」
黙って話を聞いていたその子が口を開く。
「え? うーん、まぁそうだね。後、一歩というところだと思うんだけど…」
「そして、私の気持ちは迷惑ではないと」
「うん。僕は人の感情について迷惑と言えるほどエゴイストではないよ」
「わかりました」
その子はニッコリと笑う。
「今日は引きとめて申し訳ありませんでした。それでは失礼します」
ペコッと礼をしてその子は去って行った。
やれやれ。
ちょっと危ない子なのかもと思ったけど、普通に礼儀正しい子だった。よかった。
さぁ、僕は一人で彼女のことを想像しながら帰ろう。