第13章 女神なんかじゃない(逢坂紘夢)
「私は女神なんかじゃない」
私は彼の胸の中で話す。
「え…?」
彼の声が聞こえる。私は自分の言いたいことを続ける。
「私は逢坂くんが思っているような女の子じゃない。逢坂くんが私のことほめてくれるの…最初は嬉しかったけど、今は違う。
私気付いたの。逢坂くんは私じゃなくて、頭の中で作り上げた私のことが好きなんじゃないかって」
「そ、そんなことないよ。愛ちゃん…僕は君のことが…」
彼が私の腕を軽く握る。
「本当に? 本当に好きでいてくれる? 本当の私…。
いつも適当に返事してるけど、バカだから逢坂くんの言ってること40%ぐらいしかわからなくて、
デートしてても手を繋ぎたいとか、キスしたいみたいなことばかり考えてて…
逢坂くんと付き合ったのだって、そんな深く考えてなくて、ちょっとカッコイイ人が私のこと好きって言ってくれて嬉しくて、こんな人が彼氏ならいいかなーみたいな軽い思いで…
そんなバカな女でも好きでいてくれる?」
だんだん涙が出てきた。
だって私、そんな軽い気持ちで付き合い始めたけど…
好きなの。逢坂くんのことが。
「泣かないで、愛ちゃん」
彼が私の髪を優しく撫でる。
私は顔を…上げられない。泣き顔が恥ずかしい。
「ごめんね…。僕は一方的に自分の気持ちを伝えることばかりに必死になっていたのかもしれない。
君の気持ちを教えてくれてありがとう。すごく嬉しいよ。
そして…何度でも言う。僕は君が好きだ」
彼の言葉に私は顔を上げて、彼の顔を見つめる。
涙が出たままで、きっとひどい顔だけど。
「実は僕も…君とキスしたいと思っていたんだ」
私たちは吸い込まれそうな綺麗な夕暮れの空の中、キスした。