第13章 女神なんかじゃない(逢坂紘夢)
「はぁはぁ…。あ、あの…ごめんね。急に手を握って走り出したりして」
屋上に繋がる階段の踊り場まで私たちはやってきた。
私の手首をそっと離して彼が謝る。
「ううん、別に。なんかビックリしちゃったね。いろいろ」
私は答える。
屋上へ続く階段はこの時間、人があまり通らないようだ。
気がつけば私たちは、このシーンとした空間に2人きり。
こんなとこで…私たちは…もしかして…
キスしちゃう?
私は上目遣いで、そっと彼の顔を見上げる。
彼と目があう。
キスしちゃう?
「あの…愛ちゃん」
逢坂くんが私に呼びかける。
ていうか名前呼び? 彼女だから? 彼女だよね?
私は彼の目を見て頷く。
「君は僕の女神なんだ」
彼が目を輝かせて語る。とってもいい声で。
はぁ? 女神?
「君は僕の創作を、僕の日常を、僕のすべてを彩る…僕の…僕だけの女神。君が望むこと、僕がなんでも叶えてあげる。僕を…君に仕えさせて下さい」
はぁ? 意味わかんない。
返事のしようがなくて、私は首を傾げる。
でも彼はそんな私の反応はどうでもいいみたい。話を続ける。
「僕は今日、部活が休みなんだ。一緒に下校しよう。A組の教室で待っていてね。いつも影から見守ってはいたけど、これからは愛ちゃんを堂々と守れるんだよね。感激だよ」
「う、うん」
私はなんとか頷く。
「走ったら喉が渇いたね。何か飲みに行こうか。愛ちゃんはいつものミルクティーにする? それともたまに飲む甘いいちごオレ?」
そう言って、彼はゆっくりと階段を降りはじめる。
私の顔を見てニッコリ微笑んで。
ていうか
キスしないんかい!