第13章 女神なんかじゃない(逢坂紘夢)
「お待たせ!」
英和辞典を持って、マユちゃんが私たちのほうに駆け寄ってくる。
「この子が神田愛だよ」
ルリカがマユちゃんにコソッと言う。
「あっこんにちは。やだ、逢坂くん意外と面食い」
マユちゃんが口に手をあてて、うふふって笑う。
マユちゃんのがよっぽど可愛いじゃん。
その逢坂って人、マユちゃんと会話したいから、適当な話しただけじゃないかな。
「で、どの子? 逢坂くん」
「ほら。窓ぎわの前から3番目の席。本読んでる子」
私たちはコッソリ…多分バレバレでそっちに注目する。
……。
窓ぎわの席で本読んでる。
全然こっちの様子を気にはしてなさそう。
背筋がピッと伸びて、ページをめくるしぐさは優雅だ。
窓から降り注ぐ明るい太陽の光が彼を照らす。
彼の顔に垂れる黒髪が、そよ風にサラサラと揺れて、キラキラして…。
「地味だなぁ」
ルリカがつぶやく。
「文芸部なんだよ」
「へー」
マユちゃんの説明に私たちは相槌を打つ。
キーンコーンカーンコーン…
チャイムが鳴る。
「あっヤバッ! じゃあねー」
私たちは軽く廊下を走ってA組の教室に戻る。
…
授業中、私はぼんやりと考える。
彼のような人が、もし本当に私のことを好きでいてくれたら…
私のこのツマラナイ人生、きっとバラ色に変わるかなぁ。