第10章 わたしの紘夢(逢坂紘夢)
「昨日作ったプリンが冷えているよ。おやつに食べよう。持ってきてあげるね」
私はにっこり笑って台所に向かう。
逢坂くんがコンビニでときどき買うプリン。
そのプリンを研究して作った自信作。
逢坂くんのためだけに一生懸命作ったんだよ。
「はい、どうぞ」
私は逢坂くんの前にプリンとスプーンを差し出す。
座っている逢坂くんが、少し恨みがましい目で私を見上げる。
「手を縛られているから、食べられない」
ボソッとつぶやく。
「うふ、そうだったね」
私はスプーンでプリンをひとくちすくって、彼の唇の前に差し出す。
一瞬口に入れようとしたけど、彼は顔をそむける。
「ふふっ、変なもの入ってないよ。大丈夫」
私はそのひとくちを自分の口に入れる。
「うん、美味しい。上手に出来てる」
私はにっこり微笑む。
彼はその様子をじーっと見る。
「3日も何も食べてないんだもん。死んじゃうよ。お願い、食べて」
私は新しいひとくちを彼のためにすくってあげる。
彼はそれをパクッと口に入れる。
さすがにお腹が空いていたんだね。
「美味しい? もっと食べる」
彼は無言で頷く。
嬉しい。
私は彼の隣に座って、いっぱい食べさせてあげる。
…
私は逢坂くんが大好き。
でも逢坂くんは私じゃない子が大好き。
それはそれはもう大好きで、隠し撮りしたり盗聴したりして、常に見張っているのを私は知ってる。
どうして?
それは私が逢坂くんのことをずっと見張っていたからだよ。
私はその子の中学のときの同級生。
卒業アルバムを見せてあげるって言ったら、逢坂くんはホイホイついてきた。
…
鈍感なあの子に片想いしているだけなら、我慢できた。
でも、今回の藤城学園総選挙。
逢坂くんは5位だった。
影で人気があるのは知っていたけど…こんなに表立って人気があるとわかると、私はじっとしていられなかった。
他の人に、そんな目で見られているなんて耐えられない。
わたしの。
わたしだけの紘夢なんだから!