第6章 夏祭り(芹澤悠吏)
「よう、愛。一人か?」
声をかけられて、そっちを見ると幼なじみで同級生の斗真がいた。
「…一人でこんなとこ来るわけないじゃん。
一緒に来た人が買い物に行ってくれてるから待ってるの。斗真は?」
「友達と来たんだけど、ちょっとはぐれてさ。
おまえ、誰と来たんだよ。彼氏か?」
斗真の軽口に、私は首を傾げる。
「うーん。わたしは彼氏だと思いたいんだけど…向こうがどう思ってるのか…。うーんうーん…」
「あのっ! その子、ボクの連れなんですけど何か用ですかっ!」
先輩の声が聞こえて、斗真と振り返る。
かき氷を2個持って、ちょっと怖い顔した先輩が立ってる。
「あ! サッカー部の…」
「あ… 確か放送部の…」
斗真と先輩がお互い顔を見合わす。
「あ、サッカー部の如月くんと、わたし同じクラスなんです。今、たまたま会って」
私は先輩に説明する。
「そうだったんだ。ごめんごめん。ボク愛ぽんがナンパされてるのかと思っちゃって…」
「やだー先輩ったら。うふふ」
「あはは…」
斗真が冷めた目で私たちのやりとりをみつめる。
「じゃあ…俺、友達探して来るわ…」
「うん。またね」
私は斗真に手を振る。
「いい感じじゃんか。頑張れよ」
去り際、斗真にコソッと言われる。
そんなのコソッと言わないでよ。
顔が赤くなっちゃう…。
「ごめんね。なんかボク…早合点しちゃって」
先輩がちょっと気まずそうに言う。
「いえ…大丈夫です。なんか…嬉しかったです」
私は恥ずかしくて少しうつむいて言う。
いつも優しいだけだと思ってた先輩が、あんなにハッキリと…。
先輩のあんな顔初めて見たし、男らしいとこもあるんだ。
自分の顔が赤い気がして、顔を上げにくい。
「じゃあ…溶けないうちに食べよう」
かき氷のカップをちょっとかかげ、いつもの優しい笑顔で先輩が、私の顔を覗き込む。
「はいっ」
私も顔を上げて笑顔で返事する。