第5章 星の王子さま(雨宮久遠)
一生懸命頑張って、和訳は完成した。
夏休み中に出来上がってよかった。
やっぱり『星の王子さま』だった。
半分くらい進めた所で、
これなら図書館にきっと置いてある『星の王子さま』を雨宮くんに読んであげたらいいじゃん
と、ちょっと思ったけど、自分の力で訳したこの本を読んであげたいと思い直した。
子供の頃、入院してた雨宮くんにときどき本を読んであげた。
雨宮くんに本を読んであげるなんて久しぶり。
そう思うと楽しくなった。
……
学校の庭園で、私は雨宮くんにそれを披露する。
8月後半の、風が気持ちいい夕方だった。
「もしかしたら雨宮くんも知っているお話かもしれないけど…最後まで聞いてね」
私は前置きして、自分のノートに書いた和訳を読み上げる。
訳がイマイチでギクシャクした文の所も多い。
だけど、自分の言葉で書いた、自分で作った本。
それを、雨宮くんに聞いてもらった。
「…おしまい」
私が読み終えると、彼は優しい顔で微笑んだ。
「ありがとう愛ちゃん。すごく面白いお話だった」
「うん。でも雨宮くん、この話知ってたんじゃない?」
私が聞いてみると、彼は首を傾げてちょっとイタズラっぽく笑う。
「星の王子さま…かな?」
「だよね」
私も笑う。
「でもどうして、こんな表紙であんな場所にあったんだろうね」
私は黒い表紙の魔法の書(仮)を彼に見せる。
彼はそれを受け取って言う。
「それは…やっぱり、これが魔法の書だからだと思う」
私も頷く。