第3章 僕の名前(逢坂紘夢)
「ちょっとやってみようか。わたしの名前…神田愛っと」
彼女がキーボードに彼女の名前を打ち込む。
カタカタカタ…入力
「相手の所におーさかくんの名前入れていい?」
え? 彼女と…僕で…相性占い…?
「いっいいよ」
ドキドキしてちょっと声が震えたかもしれない。
カタカタカタ…大阪…
「あ、あのね神田さん…」
僕は遠慮がちに切り出す。
「僕の名前、“おおさか”じゃないんだ。“おうさか”で変換してみてくれる?」
「おうさか? カタカタ…あ、これ?」
彼女がキーボードに打ち込む。ディスプレイに“逢坂”と表示される。僕は頷く。
「わぁ、かっこいい苗字だね」
彼女がディスプレイを見てニコニコする。
苗字を褒められても、僕が何かいいことをしたわけじゃないけど…嬉しい。
「下の名前は? 漢字は?」
だよね。苗字も曖昧だもんね…。
「紘夢だよ。ひろむ。糸へんに広島の広い…」
「あーっ! 漢字苦手! 逢坂くん直接打ち込んで?」
僕の説明をさえぎり、彼女は背中をちょっとそらしキーボードの前をあける。
僕は自分の名前を打ち込む為にキーボードに手を添える。
…近い。
ふと、彼女の身体が近くにあるのに気づいて手が止まる。
「ん? もしかして逢坂くん、かな入力?」
彼女が手が止まる僕に疑問を投げかける。
「…あ、いや。ローマ字で大丈夫です」
緊張して語尾が変になってしまった。
紘夢…っと。入力。
なんとか名前を打ち込む。
「うわぁ。名前もかっこいいねぇ」
彼女が感想を述べる。
「あ、ありがとう…。愛ちゃんも素敵な名前だよ」
どさくさに紛れて名前で呼んでみる。
「ありがとう」
彼女が僕の顔を見てニッコリと笑う。
幸せ…。