第3章 僕の名前(逢坂紘夢)
そんな感じで特に進展もなく、七夕祭の準備は進んでいく。
進展はなくても僕は楽しかった。
同じ実行委員会なので、彼女の放課後の動向を影からでなく堂々と伺える。
ある日、彼女が割と遅い時間に一人でパソコンで作業しているのに気がついた。
これはチャンス! あ、そうだ! 間に合うかな…。急げ、ダッシュ!
はぁはぁ…間に合った。息を整えて…。
「お疲れ様。これ差し入れ」
僕はパソコンの前に座っている彼女に自販機で買ってきたジュースを差し出す。
「わぁ、ありがとう!」
彼女の顔がぱぁっと明るくなる。
ダッシュした甲斐があった。はぁはぁ。
「えっと…」
彼女が僕の顔を微妙な表情でじーっと見る。
これは…。でも…僕は負けない!
「2年E組の逢坂紘夢だよ」
僕はニッコリ微笑んで言う。
「うんうん! おーさかくん! この前は一緒に本を運んでくれたし、いつもありがとうね!」
彼女が明るく話す。
その事は覚えててくれたんだね…。
僕はそれだけで感激だよ。
君の役に立てたんだよね…。
「ていうか、わたしこのジュース大好きなの。おーさかくんも? 偶然ってすごいね!」
彼女と僕は同じジュースを飲む。
偶然じゃないよ。
君がいつもこのジュースを買っているのを見て、僕も買ってみたんだ。
そして僕も好きになったんだ。
ちょっと甘いけどね。
「わたしね、今相性占いのゲーム作ってたの」
彼女がパソコンの画面を指差してニコニコと話す。
「作るってプログラム?」
「ううん、そんな難しいものじゃないよ。ツールを使ってちょちょっとね。そしてオリジナルのゲーム要素をちょこっと追加して出来上がり。簡単」
「へー。すごいね」
正直言って、彼女の説明ではすごいのか本当に簡単なのかわからないけど。