第7章 the past ③
「オレンジの、ガーベラ....」
また一会が呟いた。
「まぁ!なんて綺麗なガーベラなんでしょう。母はガーベラがすごく好きなんです」
白音さんは受け取ると、それを一会の枕元にあるサイドテーブルの上に置いた。
一会はそれを見るや、穏やかな目をした。
「ありがとう。颯斗さん」
「いいえ」
僕も目を細め微笑んでみた。
"颯斗さん"か....
23年前は"颯斗"だったのにな....
しかた、ないか
一会が生きているだけで僕は嬉しいんだ
僕は振り向き、病室を出ようとする。
「あれ、もう行かれるのですか?」
孫の陽介さんが僕に問いかけた。
「ええ、少し様子を見に来ただけですから」
僕はお辞儀をし、ドアに手をかけて右にスライドする。
「また、来てくださいますか?」
振り向けば一会が微笑んでいた。
無性に泣きたくなった。
それをぐっと堪える。
「ええ、来ますよ」
それだけ言い、僕は病室を出た。