第7章 the past ③
僕は無意識に一会を見ていた。
「僕は小さい頃一会おばあちゃんにいろいろなことを教わった身です」
これは半分嘘で半分本当だ。
僕は一会から恩を教わり、守るということを教わった。
愛しい気持ちや切ない気持ちも知った。
僕に生きる意味を教えてくれた。
大切な人。
「そうなんですか。一度もそういったお話を聞いたことがなかったので」
「先程心臓が悪いと聞いたのですが」
「えぇ。母の母、つまりわたしの祖母から聞いた話です。生まれつき心臓が悪い母は一度、17のときに死にかけたそう。治ることのない病は治り、母は息を吹き返した。正に奇跡だと、祖母は言います。それから母はわたしの父と結ばれ、24のときにわたしを産みました」
そこで娘は一旦切った。
暗い顔をして続ける。
「不治の病はやはり不治の病。母の心臓の病はまた母の身を蝕(むしば)み始めたのです。そして、とうとう耐えられなくなり、意識がないままここにいるのです。もう一度、あの奇跡がやってきてほしいと、わたしは願っています」
人間はどうしてこうもか弱いのだろうか
健全であったはずの人が一瞬のうちに息耐えてしまう
................儚いな
じっと一会の顔を見ていると、そばからごそごそという耳障りな音が聞こえてきた。
目を遣ると、娘が帰る支度をしている。
「お帰りに、なるのですか」