第7章 the past ③
土砂降りの中、傘も差さず走る。
病室を聞き、病室のドアを勢い良く開く。
個室で、少し広い病室。
その部屋のベッドにあの時よりもっとやつれた一会が横たわっている。
恐る恐る近づき、頬を撫でた。
何本かの管に繋がった腕。
その腕は恐ろしい程に細く、青白かった。
「一会....」
呼びかけても返事をするどころか、起きる気配がない。
すると、病室のドアが静かに開いた。
そこには70くらいの女の人が花の入った花瓶を持って立っていた。
「意識が....戻らないのです。母は心臓が悪くて....」
一会の娘は花瓶を机の上に置き、僕と並んだ。
心臓....
どう足掻いたって、生まれつきの病は治せないのか
「母は疲れたんだと思います。もう96ですからね。十分だと、わたしは思います。今までずっと心臓と戦ってきた母が誇らしいです」
娘は椅子に座り、僕に「どうぞ」と座るのを勧めてきた。
僕はお辞儀をし、座った。
「失礼ですが、あなたはどちら様?」
娘は戸惑いながら聞く。
「僕は....」
考えていなかった
一会の親族や親しい人と会うことを避けていたから、聞かれることがなかった
どうしよう
急に黙った僕を不思議そうに見る娘。