第7章 the past ③
もう一度言ってみる。
だけど一会は顔を歪めたまま。
何度も言ってみる。
だけど一会に僕の声が届かない。
僕は目を伏せた。
「なんでも、ない....」
僕も一会も黙った。
すると、一会が小さい声で、「ごめんなさい」といった。
僕は顔を上げ、一会を見た。
悲しい顔を浮かべていた。
「私、あなたと昨日初めて会ったのだと思っていたけれど、違うようね。だけど、何ひとつ覚えていないのよ。本当にごめんなさい」
そう言うと、一会は深く俯いた。
首を90度折り曲げ。
ポタリポタリと布団の上に丸いシミをいくつも作った。
僕は酷く後悔した。
一会を泣かせるつもりなんてさらさらなかった
なのに、泣かせてしまった
言わなければよかった
それから一週間後。
一会は退院した。
*****
僕の日常は元に戻った。
学校に行き、勉強し、部活をし、帰る。
それらが日々繰り返された。
79回目の春。
1羽のカラスが僕の前に現れた。
《そう遠くない未来。そなたの想い人の命は尽きる》
そう言い残し、飛び立った。
誰がこのカラスを僕のところに遣ったかはわからないけど、もう寿命らしい。
同年6月。
激しく雨が降る日だった。
また羽根が、僕に知らせをもってきた。
これは前の時とは違う。
本当に命が危ないことを表していた。