第7章 the past ③
「松重さん、命に関わることじゃないんですか?」
一会は少し驚いた顔をして、すぐに笑に変わる。
僕が不思議な顔をしたら、一会が謝ってきた。
「ごめんなさいね。旧姓で呼ばれるなんて何年もなかったものだから。そうね、命は関わることはないわ」
あ、そうだ
一会は結婚してるんだった
僕は命に関わることじゃないと分かって嬉しい反面、少し寂しいと感じた。
僕は羽根の気配を頼りにここにたどり着いただけだから、もちろん、ネームプレートなんてものは見ていなかった。
「今は、なんて姓なんですか?」
「今はですよ」
「さん」
それから、僕らは日が暮れるまで話をした。
最後に一会が懐かしむような目で僕を見て言う。
「どうしてかしら。今日初めて会ったはずなのに、とても昔からの友人のような感じがするわ」
「僕も、そう思います」
「あら、あなたもなの?どうしてかしらね?」
一会は本当に不思議そうに聞く。
「運命、でしょうか」
冗談半分で言ったつもりが、一会は嬉しそうに、
「そうだといいわ」
数刻の沈黙。
「そろそろ僕、帰ります」
「あら、そう?残念ね。また来ていただけますか?」
一会は本当に残念そうな顔をした。
胸が苦しくなった。
「もちろん」
僕は病室をあとにした。