第7章 the past ③
「一会........」
自然とそう口から溢れた。
そうしたら一会がうっすらと目を開けた。
それに驚いた僕は思わず逃げようとする。
「に、げない、で」
掠れた小さな声が耳に届く。
僕は足を止め、後ろを振り向く。
一会が笑っていた。
「あなたは、だれ?」
僕は一会た体を向け、また近寄る。
「はじめまして。僕は吉川颯斗です」
「はやと?いい名だねぇ」
完全に起きたのだろう。
話し方が虚ろではなくなった。
僕はそばにあった椅子に腰を下ろす。
「どうして入院しているんですか?」
「ただのぎっくり腰だよ。まったく、入院するほどじゃないのにね」
笑った顔はやはり、一会だと思った。
若い頃から変わらない笑顔。
老けても、一会は一会だ。
「娘がね、もう歳なんだから無理するなって五月蝿くてね。ほんと、世話焼きなんだから」
一会は笑い、「ねぇ?」と僕に問いかける。
「そうだね」
僕も笑い返す。
風が吹き、カーテンを揺らした。
日差しがちらちらと覗く。