第5章 the past ②
少し向こうにある電信柱の上の方。
なにか黒いものが揺れるのが見えた。
あった!
僕の羽根
僕は勢いよく飛び、羽根を口に咥える。
そのまま、僕は南の方角に飛んでいく。
人目のない薄暗く、汚れた路地に入っていく。
少し進んだ先に、一羽の烏がいる。
その烏は僕と同じヤタガラス。
「なにをしに来た」
老いた烏なのだろう。
声がしゃがれている。
「頼みがあります、長」
僕はそのヤタガラスの前に降り立ち、頭を垂らす。
「わしは長ではない。すでに破門された身。お前たちヤタガラス族に関わる気はない」
「わたしにとってあなた様は長でございます。それに、わたしももう、ヤタガラス族ではないのです」
元長は黒い目を見開く。
「なんだって?」
「わたしは禁忌を犯し、3日後の夜明けに死刑される身。どうか、わたしの願いを聞き届けてください」
長はなんと....と、唖然としている。
少し考え込み、それから僕のほうを見る。
「お前の希はなんだ」
「は。わたしの願いは人間になることでごさいます」
長は暫く黙って僕を見ている。
「............人間になりたいと申すか」
「はい。わたしは一度、人間に命を救われました。その人間が死にそうになっているのです。今度はわたしがその人間の命を救いたいのです」
「救いたいのなら、人間にならずともよかろう。なにゆえ、お前は人間になりたい」
「わたしは人間になり、その人間の一生を見守りたいと考えております。寿命がくるまで、死なせたりしない」
「................」
長は僕の目をじっと見る。
なにかを見定めているような、そんな感じだ。