第5章 the past ②
暫くし、長が口を開く。
「お前は、人間になる代償がどんなものか知っているか」
僕は少し躊躇った。
代償がどんなものかは知っている。
それはあまりにも残酷で、恐ろしい代償。
だから僕はあまり考えないようにしてきた。
だが、そうはいかない。
「............はい。存じております」
「覚悟の上か」
「はい」
「今一度聞こう。お前は、人間になり、その身が滅びるまで代償を背負い、生きていく覚悟はあるか」
「あります」
今度は、躊躇わず即答する。
長は頷き、その大きな翼を最大限まで広げ、僕を包む。
僕の目の前は真っ暗になり、やがて、真っ白な世界になる。
温かい....
そう思ったときにはもう、僕の意識はなかった。
代償ーーーそれは時間が止まり、不死の身体になること。
それだけではない。
代償を背負うものは自分の存在を忘れられる。
どんなに親しい仲で、どんなに想い想われても必ず、忘れられ、初対面となる。
己は覚えていようが、関係ない。
己が忘れるのではなく、忘れられるという恐怖が代償だ。