第3章 the past
そう呟き、人間は僕の体を傾ける。
僕の足をまじまじと見る。
僕は焦り、翼をバタつかせる。
「わっ!ごめんごめん。嫌なんだね」
元に戻し、人間はなにか考えている。
僕には分からない。
僕たちヤタガラスは人間の言葉は理解できる。
だけど、考えていることまで分からない。
「とりあえず、飛べないんだよね?なら、私が看病してあげる」
人間は歩き出す。
僕の体にまとわりつく腕から必死に逃げようとする。
だが、飛べない僕は逃げることができなかった。
僕は小さい頃から何度も聞かされてきた話を思い出す。
それは人間が恐ろしいという話だ。
何年も前のこと。
我らヤタガラス族に最大の危機が訪れた時のこと。
空を優雅に飛んでいる2羽の番(つが)いがいた。
何気なく止まった木の下に2人の狩人がいた。
ヤタガラスの特徴の3本足。
それを見た人間は売れば高い値がつくと思ったのだろう。
人間は雌のヤタガラスを銃で撃ち殺した。
だが、殺してしまったら意味がない。
彼らの狙いは、逆上したヤタガラスが復讐しに来て、生きているヤタガラスを捕まえることだった。
狙いのことなど知らないヤタガラスは群れを成して人間に襲いかかる。
しかし、まんまと罠にかかったヤタガラスは即刻引き返す。
引き返すことができなかったヤタガラスもいた。
それから、地上には一切降りなくなった。
もう2度と、同胞を人間の手によって殺されたくなかったから。
同胞を殺したのは人間
人間は恐ろしい
本当にそうなのだろうか
どうしてだろう
この人間は僕を殺そうと思っているのだろうか
とてもそうとは思えない
とりあえず、羽根が生えるまで世話になろう