第3章 the past
月明かりに照らされ、艶めくそれは夜空を舞う。
黒く大きな翼。
僕の自慢の翼。
どの翼にも負けない力。
僕がまだ大空を自由に飛び回っていた頃。
僕たちヤタガラスには『決して地上に降りてはならない』という掟があった。
食べ物は全て木の実。
だけど、僕はそんな掟を無視していた。
地上にはたくさんの食べ物がある。
動物の死骸や人間が出すゴミ。
あらゆる場所に美味しい物があった。
掟を破ればそれ相応の罰が与えられる。
僕は誰にも見つからないように下界へと降りる。
いつもは美味しい物を食べ、下界を探検し、堪能する。
今日もそのばすだった................
日没までに帰らなければならない。
時間を忘れ、遊び呆けていた僕は急いで縄張りまで帰る。
近道をしようと通った場所がまずかったのだ。
その場所はハシブトガラスの縄張りだった。
いくら大きく力の強い僕の翼だとしても、数十羽が一斉に襲いかかれば勝ち目はない。
あ........
1度も抜けたことのない僕の羽根が1枚............舞った。
ヤタガラスの翼はとても繊細で、1枚でも羽根が抜ければ飛べなくなる。
僕はそのまま落下していき、アスファルトに叩きつけられた。
ここにいてはだめだ
人間に見つかってしまう
僕は必死に翼を動かす。
だけど、飛べない。
もう日が沈む。
後ろから足音がする。
人間の足音。
だめだ!
そう思ったとき、体が宙に浮いた。
人間が僕を持ち上げたのがわかった。
「え............足が3本..........?」