第1章 《ダイヤのA》バカでも風邪は引く
御幸くんの逞しい胸板にソッと額を預ける。心臓の音がする。こんな風になっても早鐘を打つことがない御幸くんがちょっと羨ましい。
「なあ」
「ん?」
「お前はさ、いつになったら俺の事名前で呼ぶんだ?」
「え?そ、それなら御幸くんだって!」
「俺はお前が言ったら呼んでやるよ」
「ケチだなー」
はっはっと軽く笑う御幸くん。私が御幸くんを名前で呼べば、御幸くんも私の事を名前で呼んでくれるだろうか。
「…御幸くんで慣れてるからいきなりは無理」
「無理って」
今、御幸くんは苦笑いでもしてるだろう。なんとなく分かる。安心しているからなのかいつもより早く眠りに落ちた。
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《御幸一也side》
「ん…」
不意に目が覚めた。なんとなく明るいので多分、今は七時くらいだろう。錦城を見ればまだ寝ている。意外にも寝てる時は可愛いものだ。
「…」
Yシャツで寝ているからなのかクシャクシャにシワがより、ボタンも数個外れていた。Yシャツのボタンを何個か外しているのはいつもの事だが、今日は余計に外れている。
「…ったく」
ボタンを止めてやろうとしてふと手を止める。錦城の谷間から首筋にかけての露わになった素肌がやけに色っぽく見える。ソッと触れてみる。すべすべとした触り心地が何とも癖になる。
「んー」
錦城が目を覚ましたようだ。
「おはよ…御幸くん」
「おう、おはよ」
目をこすり、何度か欠伸をしてから瞬きする。
「どうだ?体、重くないか?」
「うん、もう大丈夫、ありがとう」