第5章 《ダイヤのA》好きになってはいけない
自分はそこまで黒い人間ではない。でも、朝挨拶された時は正直びっくりした。
「もしかして、お前に気があったりしてなー」
「ないない、彼氏いんのに」
「でも、不思議だよなー彼氏いるなら写メくらい持ってても可笑しくねーのに」
それもそうだ。この前、話をしているのを偶然見つけた。彼氏曰く、写真を撮られるのが嫌いらしい。
「…本当に彼氏いんのかな」
「御幸、やっぱ狙ってんのか?」
「別にー」
「お前の性格知ったら幻滅すんじゃね、篠崎」
「かもな」
互いに苦笑し、授業が始まったので話すのを止め、前を向いた。
「御幸一也ー!!!」
沢村の大声が2-Bの教室を揺らした。
「アイツ、よくこりねーな」
「ヒャハハっバカだからなー」
ズカズカと教室に入ってきて俺の目の前まで来た。
「今日こそ、球受けてもらいますからね!」
「やなこった」
「ぐぬぬー!」
沢村が悔しさに顔を歪ませていると後ろから今度は降谷が顔を覗かせた。
「お前もか降谷…」
「球受けて下さい」
「お前ら二人してよく二年の教室来れるなー」
その度胸はある意味評価してやろう。すると篠崎がこちらに歩いてきた。
「み、御幸くん」
「ん?篠崎、どうした?」
男子の輪の中に入ってくるのに勇気がいたであろうが急な用だったのか、少し焦った様子で呼ばれた。
「ちょっと頼まれて欲しいことがあるんだけど…」
教室では話しづらいと言うことで中庭に移動。来るや否や篠崎に頭を下げられた。
「私の彼氏役、お願いしたいの!」
「…え?」
彼氏役?てか、篠崎って彼氏いるんじゃなかったのか?
「実は私、彼氏いないの…告白とか避ける為に言っただけなんだけど…」
成る程。全てつじつまがあった。他校に彼氏がいると言ったのはバレない為のカモフラージュ、写メがないのもいないから。
「けど…なんで俺?」
「話せるのが御幸くんしかいなくて…」
理由なんてどうでも良かった。ただ、嘘偽りでも彼女の彼氏になれるだけで正直、心踊った。
「成る程な…分かった、引き受けるよ」
「あ、ありがとうっ」
泣き笑いの様な笑みを浮かべてお礼を言われた。
「でも、なんでいきなりそんなことになったんだ?」
「それはね…」