第60章 二者択一
葵
「はー……、泣いた泣いた」
久しぶりかもしれない
こんなに泣くのは
おかげでこめかみは痛いは目頭は熱いわ
でも、嫌じゃなかった
蛍
「子供みたいにわんわん泣いてたもんね」
葵
「蛍も泣いていいんだゾ?」
ほれほれ、おねーさんの胸で泣けや!と両腕をばっと広げれば、ほらそんな顔する
まったく、可愛くない奴め
日向
「津田……さん?」
葵
「え、なに?どったの日向」
いきなりの他人行儀で少しショック
日向
「なんか、女子を呼び捨てるのも気がひけ……」
葵
「別に気楽に『葵』でいーよ」
にししと笑って答える
日向可愛いやつ
葵
「もうこんな時間か……。そろそろ行くね」
体育館の扉に手をかける
みんなが見送ってくれる
明日は一次予選だというのに、大切な練習時間を割いてまでしてくれる
見送りなんていーよって、言ったのに中々聞き入れてくれなかった
葵
「みんな、頑張ってくださいね!私も応援してます!」
大地さん
「おう!葵も頑張れよ」
日向
「ぜってー突破してくる!」
葵
「うん。期待してる」
笑顔で告げて、私は走って行った
"期待してる"–––
あの頃は嫌いだった言葉
期待されたら答えなきゃいけない
それが重荷だった
けど、今は違う
いまは、こんなにも心が軽くて、でもすごく『がんばろう』って気になる
空を仰いでから、校門で待つ水落の車へ乗り込んだ