第60章 二者択一
田中さんや西谷さんが、どうしたどうしたと言う
もちろん彼らは知らない
もちろん、あの場に居合わせてなかった人は知らない
–––––私が、女であり、代表プレイヤーであり、一次予選に出ないことなど
繋心は、私が今から言おうとしていることを察したのか、こくりと頷いた
葵
「皆さんに、お伝えしないといけないことがあるんです
でも、その前にまず謝らせてください
すみませんでした」
深々と、丁寧に、丁重に、一片の失礼もないように、私は腰を曲げた
たじろぐ西谷さんと田中さんを中心に「どうした」という声が上がる
上体を戻し、みんなの顔を順に見る
ひゅっと冷たい風が吹いた
意を決して、私は渇いた口を開く
葵
「明日の、春高一次予選に僕は、出ません」
重たい空気
沈黙
一人は辛い顔をして、一人は眉間にしわを寄せる
一人は驚きを隠せない表情で、一人は平坦とする
田中さん
「ど、どういう、ことだよ
何かあるのか?」
葵
「すみません………。理由を話すにはまず、僕の事を知ってもらいたいんです」
そう、私の本当のコトを––––