第59章 菅原さんの想い
ジーワジーワと油蟬があちこちで喚いている
用意されたパイプ椅子に座らされ、私はボヘーッと体育館の天井を眺めていた
「暑さでおかしくなったんですカー?」
にゅっと視界目一杯に現れたのは、クロ
葵
「………」
そのままの姿勢で今度は視界いっぱいのクロの顔をボーっと眺める
相変わらずの三白眼に、おかしなトサカ頭
にんまりといつも悪巧みしてそうな口角
クロ
「そんなに俺の顔を見つめちゃってー
ちゅーしちゃうぞ〜」
葵
「……はぁ?!えっ!うわわっ!!?」
突然の発言に遅れて反応してしまう
その隙にどんどん顔が近づいてくる
葵
「えっ、ちょ!え、え!?」
私の頭はパニック状態
ただ目を丸め、私の重心はクロの顔が近づくにつれどんどん背中の方へ集まっていく
すると
グラリ
葵
「ひゃっ!!!」
パイプ椅子、私の体重が背もたれに集まったせいで支えきれなくなり後ろへ。
ガッ!
恐怖で目を瞑り、ただ襲ってくる痛みに構えているとパイプ椅子は倒れていく動作をやめた
止められたことによる反動で少しだけ宙に浮いてはまた背もたれに戻る私の身体
脳天あたりには、少し暖かい何かが当たっている
そろりと目を開けると、少し焦った顔をしてしっかりパイプ椅子を受け止めてくれたクロの顔
クロ
「焦ったー」
葵
「こ、怖かった〜」
少しの恐怖にいっそ笑いがこみ上げて、クツクツ笑った
葵
「クロも腹筋あるんだね〜」
クロ
「当たり前だろーが
毎日ちゃんとトレーニングしてんだからな」
ゆっくりとパイプ椅子を戻してくれた
視界が天井を写し、そして、体育館の外を写した
葵
「ありがと」
クロ
「おう」
ジーワジーワと油蟬は喚いていた