第54章 境界線
クロは最後までジッパーを引き上げた
葵
「…………ありがと」
教室から出ようと数歩歩いた時、後ろに引っ張られる
フワッ
クロに後ろから抱きしめられる
葵
「…………く、ろ……?」
クロ
「葵、悪かった
その、うっかり口滑らしちまって」
葵
「………うん
私の方こそ、ひどいこと言っちゃって、ごめんなさい………」
クロの腕の力が少し増した
クロ
「研磨から聞いた……
お前、代表に戻ったんだってな」
葵
「うん……」
クロ
「なんでだ?」
葵
「私は、強くなりたいの
みんなと、烏野のみんなでオレンジコートに立ちたい
みんなで、勝ちたい………
その為には、今のままじゃダメなんだ」
クロ
「………そう言うと、思ったぜ」
クロは腕をそっと離し、私の肩を掴んで向き直る
その表情は、思いつめたような顔でいつもの余裕ぶったクロじゃなかった
そういえば、あの時もクロはこんな顔だったっけ
私が倒れた幼い時も、イジメられていたストレスで倒れた中学の時も
クロ
「俺は、お前に死んでほしくない
俺だけじゃねぇ、研磨だってそう思ってる
だから、頼むから無茶はしないでくれ………」
葵
「クロ………
ごめん、クロ
多分、今までと同じように私はこれからもクロが見たら無茶してるって思うようなことするかもしれない……
でも、私にとって無茶じゃないんだよ?
私は、この身体でちゃんとやり遂げたい
若を倒すのもそうだけど、でも………
何よりも、クロ達と思いっきりバレーをして楽しんで、オレンジコートでぶつかりあいたい
みんなで、頂点に立ちたい……
だから、その為のことなの
だから、無茶じゃないんだよ
何も残さず長く生きて死んでいくより、後悔しない生き方をしたいの
たとえそれが、命を削ってでも」