第54章 境界線
葵
「………………ありがと」
クロ
「中も脱げ
その濡れ方じゃ、中まで濡れてるだろ」
葵
「……………こっち、向かないでよね」
教室の隅へ移動し、とりあえず上だけ着ていたもの全部脱ぎ、クロのジャージを着る
葵
「んっ、あれ?上がらない………」
よいしょよいしょとジッパーを上げようとしても中々上がらない
まだお腹までしか閉めれていないというのに
葵
「んっしょ………、んー?
あ、れ?っんく……!むー
なに、これ………あがんない」
クロ
「噛んだんじゃねーのか?」
葵
「わかんな……い!」
クロ
「見せてみ?」
背中を向けていたクロがこちらを振り返り、ジッパーを見る
クロ
「盛大に噛んでやがる
じっとしてろ」
そう言って、ジッパーから布を取り出すべく何かやってくれてるけど、こっちは今それどころじゃない
クロの指が時々腹部に触れてくすぐったいし、何より閉まってない胸部はギリギリ見えていない状態
こんな時胸なくて良かったとか思う
クロ
「よし、とれたぞ」
クロはそのままジッパーを上まで上げてくれる
胸部に差し掛かったとき、彼は少しその手を止めた
葵
「ちょっと……
どこみてんのよ」
クロ
「別に、俺はこの傷見てただけだ」
胸の中心、心臓がある位置にできている手術の痕
そこを彼は細長い指でなぞる
もう一度思うのだった
胸なくて、よかった
と。