第51章 1週間ぶりに帰ってきたらとんでもないことになっていた
東峰side
「はああああっ!!」
ダンッ!!
第二体育館から聞こえてきたこの静かな朝には不釣り合いな、それでもって覇気のある声
昨日の自主練で何となくコツを掴めてきたジャンプサーブを1秒でも早くモノにしたくて、自分で言うのもなんだけど珍しく早起きして学校に来た
ドアからそっと覗くと、中には津田が肩で息をしながら流れる汗を腕で拭っていた
その光景が、綺麗だと思った
彼の周りには沢山のボールが転がっていて、今さっき打ったであろうボールも壁にあたって転がっていた
津田
「まだまだ……」
そう言って、ボール入れへボールを取りに行くもなかったみたいで辺りをキョロキョロと見回して身近にあったボールを掴みさっきの位置に戻った
指先で弾かれるバレーボール
シン、とした空間にボールの音が響き渡る
そのたびに、俺の心は落ち着きをなくす
津田が後ろへ後ろへと後ずさる
そんなにも離れて届くのか!?っといつも思ってしまう
しかし彼には届いてしまう
俺よりも小さな彼には、できてしまう
高々と挙げられるサーブトス
投げる位置が絶妙で
彼が、走りだす
キュッ―
キッキッキッ
ギュッ
大きく、踏み込み
彼の腕が前へ後ろへ、また前へ振られる
前に振ったと同時に浮かび上がる小さな躰
弓なりのように沿って腕を深く引く
そして、その一連の動作が終わるとき
ジャストタイミングでやってくるサーブトス
まるで、自分があげたボールじゃなくて
誰かにトスを上げてもらっているような
正確さ
その弓が力いっぱい弦をしならせ、矢を放つ
津田の身体は、その矢を放つべく前に押し出した
手元から放たれるボール
それは、もう孤を描くものじゃなく直線的に伸びていく
それが向かう場所は彼が立っていたコートの端の対曲線上にあるコートの端
彼が回りこんで打つ理由もこれのためだとわかった
もはや、サーブじゃない
これは、スパイクだ――
津田
「あ、旭さん
おはようございます」
東峰
「おはよう」