第48章 ほどけぬ糸
あいつが俺達と遊んでいる時にぶっ倒れた時のことはよく憶えている
俺達があいつの病気を知ったのもその後に見舞いに行った病院でだった
鈍器で殴られたような感覚だった
ストレスを抱え込みすぎると、体に負担がかかって発作が出やすくなる
胸に強い衝撃を与えてはいけない
激しい運動は避ける
そういうあいつが"出来ないこと"を俺達はあいつの親から聞いた
その時のあいつの親の辛い顔も俺は忘れられない
あいつを守れるのは、俺達だ――
研磨と2人、あの後の帰り道で話し合った
葵が世界ユースに入ったと聞いたときはビビった
日に日に遊ぶにつれて、あいつのバレーセンスは目に見えるように伸びていくのを見ていた俺達は、あいつの才能に驚いていた
あいつは天才だ
テレビであいつが出るたび研磨と食い入るように見ていた
インタビューを受けたり、町中を歩いた時に目にした雑誌の表紙にあいつが載っていたりすると、なんだか俺より先に大人になったみたいで、それでいて遠い存在になったようで、寂しさはあった
中学にあがるにつれて、葵は代表から抜けた
葵曰く、『飽きた』なんて言ってたが、こいつに限ってそんなことはない
あんなにも熱中していたバレーに『飽きる』ことがないからだ
後でおじさん達に聞くと、心臓のことも、世間の目もあるから、と言われた
飽きたという割には葵は、中学のバレー部での活動は楽しそうにしていた
たまに体育館を覗けば、笑顔で仲間と話す葵の姿に安心していた
3年の奴にもたまに様子を聞いたりもした