第1章 大切な宝物
「あなたの弟よ」
「おとーと…?」
母の視線を追う形で母の寝るベッドの奥にある場所をみれば、そこには、大きめの籠があり中から白い布がはみ出しているのが見えた。
「私の弟」という響きに自分へのプレゼントが入っているんだと思った私は、立ち上がり反対側の籠へと近寄り籠の中を覗こうとしたけれど、近づいてみると籠は私が覗こむには難しいであろう高さにあって、爪先立ちで頑張ってはみたが先程よりも白地の布が大めに見れただけに終わってしまった…。
しかし、思いがけない進展はあった。
今だに手をかけていた籠からガサッと小さな音が聞こえたからだ。
ビックリして勢いよく籠から手を離してしまい、後ろに数歩下がってしまったが、タイミングよく父が近づき支えてくれた為転ぶまでには至らなかった。
「見てみるか?」
私を支えた父は軽く籠を見ながら尋ね、返事を聞く前に私の脇の下に腕を差し入れ抱きかかえようとしたので、私は「イヤだ」と首を振りながらバタバタと暴れた。
父だけじゃなく母も私のその行動には驚いた様で目を丸くしながら私を見つめた。
「だって…」
私は怖かったのだ。
背の高い父からは、今いる場所からでも籠の中にいる命あるものが見えるのだろう。
籠の中の命は母の大きかったお腹にあったものだ…
私は何ヶ月もの間2人が優しい目で、とても大切そうに大きくなるお腹を見ていたのを知っていたから解った。
私には沢山の宝物がある。
公園に遊びに行った時に見つけたお花、川の近くでみつけた丸くてツルツルした石、お気に入りの積み木も今している手袋やマフラーも…それをプレゼントしてくれた父と母…全部が私の宝物。
だからーー両親の瞳を見てこの命が2人の宝物なんだと解る。
「…怖いの…」
私が触れたら、壊してしまいそうで
壊してしまって…2人に嫌われてしまう事が
私は一番怖かった