第1章 大切な宝物
その後は両親の顏をみれなくて両手を握りしめながら俯いていた。
けれど、その時間は長くは続かなかった。
布擦れの音が聞こえたかと思えば、ガシガシと頭を強めに撫でられ反応する間もなく父の逞しい腕で抱え上げられる。
慌てて降りようともがくとすぐ側から衣擦れの音が聞こえて父にすがりつく様にして顏を隠した。
無言で先程の様に首を振り拒否を表す私の名前を呼んで母が言う。
「ほら、この子もファブールお姉ちゃんに会えて嬉しいって」
母の言葉に微かにピクリと反応した私を父は見逃さなかった。
続け様に「ファブは優しいお姉ちゃんだろ?」と言われてしまえば…昨日の夜の事を思いだしてゆっくりとそこへと視線を向けるしかなかった。
「おとーと…」
そこには白い布とブランケットの間に小さな身体を預けぱちぱちと瞬きを繰り返す温かな存在があった。
私よりも小さな身体に、私と同じ母そっくりな黒髪をうっすらと生やし父の瞳と同じ黒い瞳を宝石のようにキラキラとさせて視線を彷徨わせていた。
「可愛い」そう呟きながら無意識に弟に伸ばしていた私の手は柔らかな頬を撫で、近くで作られていた握り拳へと進んでいく…
「ぁ…!」
弟のとても小さな手に軽く触れると、作られていた握り拳は1度崩され、もう一度、今度は私の指を巻き込みながら作られる事となった。
柔らかく弾力のある小さな手で、たまにキュッと私の指を締め付けながら、その温かさを伝えてくる。
私は高鳴る鼓動と同時に小さな痛みを感じながら、両親に笑顔を見せた。
「ママとパパのたからもの、すき」
私の言葉に2人は嬉しそうに笑ってくれた。
「ママとパパも2人が大好きよ」
「ファブールとこの子は、パパとママの大切な宝物だからな」
私の大好きな笑顔で父と母がそう言ってくれてとても嬉しかった。
2人にぎゅうっと抱きついてキスをしたのをよく覚えている。
弟が産まれた日ーー1月9日。
その日は私に2つのとても大事な宝物が出来た日だった。