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コウモリと黒ウサギ

第3章 私の弟を紹介します


弟が生まれてから5ヶ月が経ち、季節もさらりとした風の吹く夏へと近づいていた。

そんな平日のお昼過ぎに2階の部屋から昼食の片付けと夕飯の下ごしらえを行っていた母の横を通り過ぎリビングへ大急ぎで向かう。

「セブ!これ見て!」

リビングでカーペットの上に寝転がり匍匐前進をする体勢のまま私を見上げる弟へとベビーゲートを跨いで近づいて、傍に座り込み手に持った紙をジャジャーンと開いて見せた。

首も据わり以前より手足を自由に動かす事が出来る様になった弟は「うあ!」と声を出して寝返りをうったり首を持ち上げたりと忙しそうだったが、どうしても見てほしい私はもう一度「見て!」と言ってカーペットの上に紙を広げた。

「上手でしょ?これが私で、これがセブよ!それで…」

一瞬、少し面倒臭そうな表情を弟がした気もしたがそこには触れずに本日の力作の説明へと移った。

紙に沢山の色を使って描かれたものは私の家族だ。

いつもより早く目が覚めた私が朝からクレヨンと紙を探り出し一心不乱に描き続けたその絵は費やした時間の割には…普通の子供の描く絵だったが…その時の私にとっては上手く描けた家族の絵だったのだ。

しかし、私よりもずっと幼い弟にそれが理解できる訳も無いし、そもそも認識できる程目が見えている訳でもないので…目の前に広がる色とりどりの紙を掴むとギュッと握り込みもう片方の手で引っ張ってビリビリに破くという、当時の私にはショックな出来事が起きた。

そのまま紙を口に持っていこうとした弟の手を咄嗟に掴みながらも私の瞳からは涙が零れ出し泣きながら母に助けを求め、駆け付けた母は直ぐに状況を理解し弟を抱き上げベッドに乗せると私の頭を撫でながらこう言った。

「ママが直してあげるから、もう泣かないの。セブルスも態とやった訳じゃないから怒ったり嫌いになったりしないであげてね?」

「もとに…戻る?」

「大丈夫。ママに任せて」

真っ二つに破かれた私の手にある紙を丁寧に預かり優しく言う母に、大きく頷きながら袖でゴシゴシと涙を拭った私はリビングを出て2階へと向かう母の姿を見送ってから弟を見据えて一言。

「セブのばかぁ」

文句を言われてもキョトンと私を見つめる弟に、深呼吸をしてから近づいた私は枕元にあったガラガラを持って遊んであげる事にした。
暫くして戻って来た母の手には元通りになったあの紙があった。
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