第2章 姉と弟
「よく、わかんない…」
私に解るようにと言葉を選んでくれているのであろう両親に申し訳なくなって顔を隠すように父に抱き付く。
「ファブールはちゃんとお姉ちゃん出来てるぞ」
父の元気付ける様な言葉も首を横に振って否定した。
だって、あの子の為に何かをした事なんて一回だってない。
いつだって私は母の為、父の為と頑張ってきたのだ。
そこに【姉】としての私は何処にもいなかったのだから、あの子に何かをしてやれた事も無いし好かれる理由も無いと思った。
「じゃあ、ほら!お姉ちゃんへの第一歩だ」
なんだかまたモヤモヤとしてきて「うー…」と唸る私をサッと抱き上げ両親の間に戻し、すかさず母に手渡された紙を効果音付きで目の前に差し出してきた父は満面の笑みだ。
どうするべきか若干の迷いはあったが父の笑みに後押しされる形で差し出された紙を手に取ると、そこには綺麗な字で4つの名前だと思われるものが書いてあった。
「貴女があの子にピッタリだと思う名前はどれ?」
左側から聞こえてくる優しい母の声を聞きながら紙に視線をやるけれど、やっと自分の名前の綴りを書ける様になった私には知らない、見た事も無い名前の綴りを読むのはまだ難しくて首を傾げるしかなかった。
しかし、母は勿論それは解ってますといった感じで1つ1つを指さしながらの読み方を教えてくれる。
ファルサ・ニゲル・ノックス・セブルス
と読むらしい4つの名前を凝視して口に出して読んでみる。
両親が見守る中、順番に名前を読んでいた時ふ…とを視線を上げると弟と目が合った。
いつの間に起きたのだろうか…泣く訳でもなくこちらを見続ける弟と私の視線は逸らされる事がない。
私を見つめる黒の瞳ーー父が言った様にこれが私がこの子に【姉】として出来る初めての事だとしたら…
そんな事を思いながら次の名前を呟く様に言う。
すると、弟は抱っこをせがむみたいに私に対して腕を精一杯伸ばしてきたのだ。
それを見た時に私は決めた。
紙をテ-ブルに置きソファを降りた私は、両親の視線を受けながら弟の元へと向かい、その隣へと腰を下ろすと告げた。
「セブルスが良い」