第2章 姉と弟
両親の間に降ろされた私の身体中はソファに深く沈み込み、この場所に座るのも久し振りだと気付く。
姉になってからはいつの間にか両親の向かい側に座るのが普通になっていたんだな…と思っていると右側から顔を覗き込んで来た父も「此処に座るのは久し振りだな」と言って来たのでビックリした。
そんな私に「パパは寂しかったぞー」と抱き着いてソファを堪能する暇も与えずに自分の膝上に座らせた父は「痛そうだ…」と少し腫れた瞼にキスをして、母もそっと手を握ってくれた。
「大丈夫。今はぽかぽかするもん」
ソファの上、私に向けられる温かな父の笑顔と母の笑顔がある。
弟が産まれる前には日常だったその光景を前にすれば自然と笑顔になれた。
「ファブールにあの子の名付け親になって貰おうかな」
改めて名前を呼ばれた後に言われた台詞だった。
先程まで両親が話し合っていたのはこれについてらしい。
イギリスの出生届は6週間以内と決まっているので、今日中に名前を決めて明日提出しに行きたいそうなのだ。
しかし、自分達である程度まで候補を絞りだす事までは出来たが決める事が出来なくて困っている…と。
「ファブはあの子のお姉ちゃんだし、あの子ファブを凄く好きみたいだもの」
嬉しそうに笑いながら弟を見る母に釣られて私も弟を見たけれど閉じられた瞳と視線が交じる事はなかった。
「さっきあの子が泣いたのも、きっとファブが泣いたからね」
「悲しくなったんだわ」と続けられた言葉に胸がチクリと痛んだ気がして…
「どうして?」
どうして、あの子が泣いちゃうの?
だって…気持ち悪くなったのも、怖かったのも私なのに
怪訝そうな顔をしていたのだろうか。
「そんな顔しないの」と私の頬を数回突ついた母は顎に手をやり首を傾げて数秒後、困った様に笑って「なぜかしらね?」と父に尋ねる様に言った。
「きっと、姉弟だからさ。2人は繋がってるんだ」
「ココがね」と微笑みトントンと軽く指で押された場所がまたチクリと痛む。
父の言う【親子】と【姉弟】はなんだか難しくて、早く理解出来る様になりたいと私は思う。
それが解れば、この胸の痛みも無くなる気がした。