第2章 姉と弟
土曜の夜、夕食後に父と母はかれこれ2時間程話し合っていた。
しかし、話し合いは思う様に進んでいない様で、暖炉でパチパチと薪の爆ぜる音に混じって、唸り声や溜め息が聞こえてくる。
私は2人の様子をチラチラと伺いながら、父が時間を見つけて作ってくれた英数字練習紙に書いてある父の少し雑な字をなぞる様にして英数字のお勉強をしていた。
暫くそんな状態が続いたがフゥ…と息をついて母が席を立ちキッチンへ向うと父も両手を天へ伸ばし凝り固まった身体を解し始める。
2人を追う私の視線は自然と私を見た父と重なり見つめ合う事数秒…父がへらりと緩みきった笑みを浮かべながら「お勉強は順調みたいだな」と頬杖をつくので首を縦に動かして答えてから、聞こえてきた小さな声に両親の向かい側に座る私の隣の席を見て身体を乗り出して弟を覗き込んだ。
暖炉側に近いソファの上で寝ていた弟は、もう一度声をあげはしたが起きて泣きだす状態までいかずにまた深い眠りに落ちたみたいだったーー。
安堵の溜め息を私が吐くと目の前のテーブルにコトンとカップが置かれる。
上に視線をやれば父同様…なんとも形容し難い笑顔で私を見る母がいて、堪らず私は甘い香りを放つホットミルクココアに手を伸ばした。
私が1人で遊び勉強し弟の面倒を見始めた頃は、私の変わり様に驚き心配していた両親も【姉として成長した私】に納得したみたいだった。
実際、私は変わったと思うが…こういう時に見せる両親の笑顔はあまり好きではなかった。
甘える事も出来なくなり弟に両親の愛を独り占めされた。
本当は私が苦痛だと思っている事を解ってくれない両親。
独占欲と理不尽かつ自己中心的な子供的思考は負の感情ばかりを産み、両親の笑顔の為にと始めた事だけれど、それは私にとって良い結果をもたらさなかった…
始めて弟を目にして触れ合った時の胸の高鳴りはなんだったのかと思う程、この時の私は宝物である筈の弟を【嫌い】だと思ったのだ。