第2章 姉と弟
駐車場につき後部座席のドアを開けて母のエスコートをする父の横を通り自分の力で車に乗り込み、運転席側のシートによじ登るとドアを閉めて窓越しにウィンクをした父に唇を尖らせチューをお返しする。
父が運転席でシートベルトをしているのを見ているとグッと自分の座るシートが沈むのを感じ横の席に視線を移す。
珍しく後ろの席に座る母と眠る弟に自然と笑顔が溢れた。
座り直し終えた母はニコリと笑って「良い子にしてた?」と聞いてきたので、私は何度も頷き一週間振りの母を少しでも感じようと腕に自分の手を乗せながら、この一週間の出来事を母に話し始める。
余すこと無く話そうと一生懸命だった私は、走り出した車にも気付く事なく喋り続けた。
「この子の名前は決まった?」
10分程走らせた頃に母は父の背中へと話かけた。
私の話もひと段落付き、緑ばかり続く道を見るのも飽きて弟を見つめていた私の頭上からの声だった。
「いや…それが、忙しくて考える時間もなくてね…」
苦笑いを浮かべながらバックミラー越しに母に視線を送った父は直ぐに前方へと視線を戻し、母も「それもそうよね」と笑って私の頭を左手で撫でた。
「名前ないの?」
「早く決めてあげないとね。ずっと『この子』じゃ可哀想だもの」
心地の良い母の膝の上、右腕でしっかりと支えられて眠る弟を見つめ頭を撫でる母に頷き返す。
「ファブールの時みたいに最初から決めてれば良かったな」
「そうね」と笑う母の振動が伝わったのか、それとも自分の話をされている事に反応したのか…急にパチッと大きな眼を開いた弟は大音量で泣き出し、側に居た私は驚きの余り身体を仰け反らしてしまい後頭部をドアに強打。
家に着くまでの残りの時間、車内は私と弟の泣き声が響き渡り、泣き止ませようにもお互いがお互いの泣き声に触発されて更に大声になるだけという凄まじい悪循環を繰り返すばかりだった…。