第8章 strategie⑧
「そんなに好きなんですか?彼女のこと。」
「え?」
諦めかけたとき、川崎が静かな声でボソっと言った。
「あ、いや…、長年光一さんの元についていてこんなこと初めてだったので、本当にお好きなんだろうな、と思いまして。」
仕事以外の話しを川崎とする機会なんて殆どなかったので、少し妙な気持ちになる。
「まあ、そやな。それに関しては自分でもびっくりしとるわ(笑)」
そう笑うと川崎もつられたように少し笑顔になった。
「恋とかそういうんじゃないねん。なんか引きずりこまれる感じ。俺ヒロカがそばにおったらそれでええねん。多分。
でも、もう無理なんかなあ。」
川崎はしばらく黙って考え事をしていたが、静かに口を開いた。
「いや…。無理じゃないです…。」
彼は一点を見つめながらそう言った。
「…えっ…?!どういう意味や…。」
「一つだけ方法があります。」
ぐっと俺の顔を見つめそう言った彼の瞳はまっすぐで、まるでプロポーズするかのようにピュアな眼差しだった。
「なっ…なんや…。」
「僕は何も知らないし、何もやっていない。全て光一さん一人で行動したこと。そう約束できますか?」
「お…おう。」
変な汗が出てくる。
「実は今、ヒロカさんは下北沢で舞台をやっています。演出家に頼み込めば、演出席から観劇できるかもしれません。」
俺の手は震え、今自分がどんな感情になっているか分からなかったが、熱い涙がこみ上げてきた。