第8章 strategie⑧
川崎は運転がうまい。
下手な運転手だと代わって運転したくなってしまうが、彼の運転は無駄がなく美しい。
そのせいかたまに後ろで寝てしまうし、窓の外を見ながら余計なことを考えてしまう。
今日も一日仕事を終えて、街中の輝くネオンを見ながら俺はため息をついた。
あの日彼女と別れてから一年が経つ。
彼女とのスキャンダルに世間が飽き始めたころ、俺はしれっと芸能界復帰をし、何事もなかったようにまた忙しい日々が始まってしまった。
俺はあれから彼女の情報をネットで調べたりすることを辞めた。
一度調べるとやめられなくなってしまいそうだったからだ。
だからどんな活動をしているのか全くわからない。
いや、
全くというのは嘘だ。
マネージャーやまわりの人間がたまに俺に話してくる。
有名な演出家の舞台が決まっただとか、映画のチョイ役が話題になったとか。
世間の注目を浴びるようなでかい仕事はまだ得ていないものの、確実にステップを歩んでいるようだった。
俺はまわりの人間が流す情報を興味ないふりして聞きながら、心の中でほくそ笑む。
二人きりでした約束のせいだ。
ヒロカが天下とったら結婚する。
子供みたいな約束だけど、俺を勇気づけ、今でもココロは彼女と繋がっていた。
「光一さん、ヒロカさん滝沢監督の映画決まったみたいですよ。」
川崎がバックミラー越しにちらっとこちらを見る。
「ふーん。そうなんや。」
「なんか興味なさそうですね。諦めてしまったんですか??」
「うーん、どうやろなー。」
川崎は呆れた顔をしてまた運転に戻った。
あの日時の熱はなんだったんだろうと思っているのだろう。
おれは街中のネオンをまたじっと見ていたが、たまらなくなって、口角が緩むのを感じる。
ヒロカ…
待ってるからな。
ヒロカが天下とったら二人でバンジー行くのもおもろいな。
俺は川崎にバレないように下を向いてふふふと笑った。
end