第8章 strategie⑧
昼の2時を過ぎると、ガチャガチャと玄関の方から音が聞こえてくる。
これが毎日の日課だ。
「光一さん、買ってきましたよ。」
マネージャーの川崎がこの一ヶ月いつも決まった時間に、決まったように合鍵を使って勝手に扉を開けて入ってくる。
「おつかれさん。冷蔵庫に入れといて。」
「何言ってるんですか。食べて下さい。昨日もほとんど食べてないですよね。」
「食欲ないねん。」
一日のご飯を買って来てくれるのだが、こんな檻の中みたいな生活で何もしてないのだから、食欲なんか湧くはずがない。
「食欲なくても無理して食べて下さい。テレビ復帰したとき痩せこけてたらみんな心配しますから。」
「まあ、そやな…」
そうぼんやり答えながら、川崎の今のセリフをまんまヒロカに言われたら何倍でも飯食えるのに。と、今では夢のようなあの日々を思い出す。
あぁ、ヒロカの生姜焼きが食いてー。
目の前にはスーパーで買ったお惣菜が差し出され、余計虚しい気持ちにさせられた。