第7章 strategie⑦
急いでマンションに戻り、家のとびらを開けるとそこは真っ暗で誰もいなかった。
やっぱりかと思い、タバコを手にとり深呼吸するように煙を吸った。
もしかしたら旦那のところに戻ってしまったのかもしれない。
最悪や。
詰めが甘かったと思う。
なぜアンリと自宅の近くのカフェで待ち合わせしてしまったのだろう。
アンリにそこのカフェが良いと言われたが、断っておけば良かった。
というか、最初からヒロカにアンリに会いに行くことを伝えれば良かった。
しかし今さら後悔しても起きてしまったことはもう遅い。
誤解を解くために電話しようとしたが、もし旦那が近くにいて変なことになったらヒロカに迷惑がかかる。
今日は諦めて、メールだけ打つことに決めた。
「話しがしたい。一度会ってくれへんか?」
そう送って携帯を机に静かにおく。
すると携帯を置いた左手に、ポタリを一滴の水滴が落ちた。
一瞬なんだか分からず、これはなんだと思っていたが、自分の涙だということがすぐ分かった。
俺は泣いていたのだ。
冷静に考えているはずだったがそれは嘘だった。
ヒロカと過ごした数日間が本当に幸せで、いつか終わってしまうものだと分かっていたが、その反面もしかしたら永遠に続くのではないかと、バカな希望も抱いていた。
しかし俺のせいで壊れてしまった。
おそらく旦那のところに戻ってしまったのだろう。
それが悔しくて、悲しくて、さみしくて、涙を拭っても拭っても落ちてくるので諦める。
ほんま情けないわ。
こんなことで泣いて高校生やないのに。
しかし、泣いていても俺は心に決めていた。絶対にヒロカを取り戻してみせると。