第6章 strategie⑥
とにかくわたしは走って走って逃げた。
息が苦しくなるほどに。
風がわたしのボサボサの髪の毛を揺らしてなびかせた。
こんなに走ったのはいつぶりだろうか。
中学の時バトミントン部に入って、人間関係が壊れてしまい中2でやめた。高校は帰宅部だったから、それ以来かもしれない。こんなに全速力で走ったのは。
涙が流れる中、わたしはそんなことを妙に冷静な頭で考えていた。
公園が近くにあったので、わたしは息を切らしながらそこで休憩をした。
ここ最近家で酒を飲んだり、タバコ吸ったりする毎日だったので、息をするのが苦しかった。
身体がだるく、足がガタガタ震えた。
恥ずかしかった。
とにかく恥ずかしくて死んじゃいたかった。
自分の醜くさと滑稽さを目の当たりにして、見て見ぬ振りをしていたカサブタを思いっきり引き剥がされたように心が痛かった。
でも同時に気づいたことがある。
わたしは光一のことが好きなんだ。
大好きで大好きで、もうこれはどうしようもなくて、かっこ悪くても間違ってても、隠しきれない感情なんだ。
はあはあ、と肩で呼吸をしていたら、額から汗が流れてきた。
部活は二年間しかやってなかったからあんまり覚えてないけど、この感覚は部活が終わったあとの清々しさに似ていた。
良いじゃないか。
光一はカッコ良くて有名人なんだから、彼女がいるのは当たり前。
そんな人にわたしは恋したんだ。
たったそれだれのことじゃないか。
ふと前を見ると空はオレンジ色をしていて、今が夕方なんだと初めて気がついた。