第6章 strategie⑥
すると、店の中にいた光一とバチリと目が合った。
わたしはハッとして、持っていたタバコを落としたのがわかった。
光一の反応に気づいた彼女もわたしの方を見た。
店の中の二人は、窓の外のわたしをじっと見ていた。
時が止まったようにその三人に妙な空気が流れた。
わたしは急に恥ずかしくて情けなくて、その場から走って逃げようとした。
しかしその場から動けない。
体を動かそうにもうまく動かせないのだ。
少しして、店の中から光一が出てきた。
「ヒロカ!!!」
そう名前を呼ばれたがわたしは咄嗟に目をそらした。
光一はもう一度わたしの名前を呼んでそれから体を引き寄せ抱きしめた。
わたしの中で何かが壊れる音がする。
「離してっ!!!!!」
大きな声を出して振りほどくと、光一はびっくりした目でこちらを見ていた。
何が起きたのかわからないという顔だ。
それなりの人通りのある場所だったので、まわりの注目も一瞬浴びた。
わたしは引っ込みがつかず、全速力で逃げさった。
「ヒロカっ!!!」
もう一度名前を呼ばれたがわたしは振り返ることができない。
あんなドラマのワンシーンのような完璧な二人に見つめられて、わたしは素っ裸にされたように恥ずかしかったのだ。
こんなみすぼらしい格好で出たことを後悔した。
少しでも光一の彼女面をした自分を恨んだ。
わたしと彼はそもそも住む世界が違ったのだ。
それなのにこんなに自分を見失うほど、生活が破綻するほどに彼に溺れて、彼に依存していたなんて本当に馬鹿げている。
光一に抱きしめられたわたしは、カフェにいた彼女から見てさぞかし滑稽だったに違いない。