第6章 strategie⑥
そのときだった。
カフェの前を通りすぎようとしたとき、わたしはある人を目にして息をのんだ。
黒いキャップを深くかぶって顔を隠していたが、あれは間違いない。
光一だ。
カフェで誰かと話しをしているようだった。
窓の外でタバコを片手に、わたしは店の中の彼に釘付けになっていた。
今日は仕事と言って出て行ったはずなのに、こんなところで何をしているのだろう。
わたしの心臓は変な音でバクバクと鳴り響いて止まない。
嫌な予感がする。
なぜなら光一の前に座っているのは綺麗な女の人だったからである。
モデルさんのように垢抜けていて、スタイルも良い。
帰国子女という言葉がよく似合う。
綺麗に巻かれたその長い髪はまるでお姫様のようで、光一と彼女がカフェにいる姿は絵になった。
嫌だ。
嫌だ。
嫌だ。
わたしは頭の中でそう何度も何度もコダマするが、なぜかその場から動けなかった。
分からないじゃないか。
もしかしたら何かの打ち合わせかもしれない。
仕事の話しをしているだ。
そう励ますように自分に言い聞かせていたが、全く意味のないことだった。
光一の前にいた彼女は涙を流し始めたのだ。
何かを責めるように感情的に泣く彼女。
光一はそれを見ながらバツの悪そうな顔をしている。
ああ、
これはあれだ。
痴話喧嘩というやつだ。
頭の中がぐちゃぐちゃになって、目の前が真っ暗になった気がした。