第5章 strategie⑤
キンキとしての雑誌の撮影、インタビューを2本こなし、それから剛と別れ、ソロアルバムの打ち合わせして一日が終わった。
帰り道、運転しながら不安な気持ちでいっぱいだった。
ヒロカは今の俺をどんな風に見ているのだろう。
脅してまでそばにいて欲しいなんて、アホで卑怯で憐れと思っているに違いない。
俺が元カノに感じた感情そのまま、もしヒロカが俺に抱いていたとしたらどうだろう。
鬱陶しくてわずわらしい。
いや、俺のしていることは元カノ以上だから、鬱陶しい以上に恐怖心でウチにいるのかもしれない。
俺とヒロカはフラットではない。
年齢も10個以上離れているし、同じ業界にいて俺の方がずっと先輩。
お金もヒロカがいくら持っているか知らないがまあ、俺より持っていることはないだろう。
それに男と女だ。
手をあげられたらどうしようと思っているのかもしれない。
俺は、持っているチカラを彼女に振りかざして脅している自分が情けなく思う。
でもそれでもそばにいて欲しい。
もうどうしようもないんや。
俺は不安な気持ちをかき消すように、ヒロカの笑顔を思い出す。
照れたように下を向いてはにかむ彼女。
俺が抱きしめるとそっと手を回して応えてくれる彼女。
俺がキスをするとすぐに息をあげる彼女。
大丈夫。
俺はまだアンリじゃない。
そう言い聞かせると、今すぐにヒロカの笑顔が見たくなって、この手で抱きしめたくて運転していた車のアクセルを強く踏んだ。