第5章 strategie⑤
雑誌撮影控え室──
「最近ぼーっとしてんな。恋でもしたんか?」
顔を見上げると相方の剛がにやけた顔でこちらを見ていた。
俺はわざと大きくため息をつく。
「してへんわ。」
「してへんって、どっちや?ぼーっとか?恋か?」
「どっちでもええやろ。」
茶化したような態度に俺はなぜかそわそわしてしまう。
剛は本当に女のように勘がいい。
前付き合っていた彼女は剛と共通の知り合いで、剛にはしばらく黙っているつもりだったが、すぐに気づかれて問いただされた。
誰にも言わないで付き合うと約束した彼女との約束をたった二週間でやぶってしまったのだ。
こいつには何故か嘘がつけない。
全てを見透かされている気がしてしまうのだ。
「まぁ、どっちでもええけど、あんまり冷たくしたらあかんで。アンリちゃんの傷まだ癒えてないみたいやし。」
「は?」
いきなり元カノの名前が出てくるものだから俺は一瞬フリーズした。
「は?ってなんや。」
「いや、なんでいきなりその名前出してきたん?」
剛は分かってないというような冷めた目でギロリと俺のことを睨みつける。
「…なんやねん。」
「こっちのセリフや。お前がなんやねん!」
素早い返しになんと返事をしたらいいのか分からなくなる。
剛は持っていた雑誌をおもむろに閉じ、バサっと机に置いて、俺の方向に座り直した。
「あんな、ここ最近お前が恋に浮かれてたのはずっと知っとったで。ここまで入れ込んだお前見たことないからしばらく黙っておこう思ったけど、なんも分かってないみたいやから言わせてもらうわ。」
「なんやねん。」
俺は内心ドキドキしながら、彼の顔をまじまじと見つめる。