第5章 strategie⑤
「なに考えてるんですか?」
見上げるとヒロカが不思議そうにこちらを見ていた。
「いや…」
「トースト冷めちゃいますよ?」
「そやな。」
彼女はどう思っているのだろう。
俺に脅されているというのに、嫌な素振りをみせない。むしろこの状況を楽しんでいるかのようだ。
一週間もこの家にいて、旦那は心配しないのだろうか。
なんて言っているのか。
一週間前の涙はなんだったのだろう。
旦那と喧嘩でもしたのか。
俺はヒロカに聞きたいことが山ほどあったが、そのどれにも触れずにここまできた。
聞いたらヒロカは俺の前から去ってしまうような気がしたのだ。
それだけは絶対にいやだ。
「ヒロカのつくる料理はほんま美味しいな。」
「料理って。卵焼いただけですよ。」
「なに言っとんねん。卵焼くの難しいやろ。」
「そうですか?ありがとうございます。」
照れたように笑う。
「夕飯は…生姜焼きがええな。」
俺はまたワガママを言う。
「一緒に食べような。」
「はい。」
ヒロカは濁りのない笑顔を見せた。
いつまで続けることができるのだろうか。
綱渡りのようにフラフラした足取りで俺は彼女との日々を繋ぎ止めていた。