第4章 strategie④
もともとわたしには彼への愛がなく、お金目当てで結婚した。
だって彼との結婚がなければ今頃、役者は辞めて故郷で風俗でもやっていただろう。
だからわたしが結婚してできることというのは、タクヤの妻を演じることだ。彼に尽くすことだ。
しかし、もしかしたらタクヤも夫役を演じているのかもしれない。
なんで?
なんでタクヤはわたしと結婚したのだろうか。
大切なお金をわたしの父親に使ってくれたのだろうか。
わたしの頭の中はぐちゃぐちゃになり、涙が止まらなかった。
たかが風俗で。
風俗なんて男なら行くのは当たり前。
しかしそんな些細なことで崩れてしまう程、わたしは弱っていた。
ガチャ。
扉が開く音がする。
タクヤが帰ってきたようだ。
わたしは一瞬心臓がビクンと飛び跳ねた。
急いで涙を拭く。
「ただいま。」
タクヤはいつものように気だるそうに部屋に入ってきた。
「あ、おかえり…」
「……どうした?」
笑顔を努めたが、目が赤くなっていて瞬時にタクヤにばれてしまった。
「え…なにが…?」
「なにがって…泣いてるだろ。」
「………。」
わたしは言葉がさっと出なかった。
「なんで泣いてるの?なんかあったのか?」
わたしは静かに首をふる。
なんて言っていいか分からない。
だってなんで泣いてるかなんてわたしにも分からないのだ。