第4章 strategie④
それから一週間わたしは馬鹿みたいに悩んでいた。
光一から貰った連絡先を何度も何度も見返して、とうとうアドレスも番号も頭に入ってしまう程だ。
連絡すればいい。
こんなに悩むくらいなら。
結局自分を守りたいだけなのだ。
この間みたいに光一に強引に誘われたら受け入れる。
光一のせいにできるから。
しかしこうやって、わたしから選ぶことを任された途端臆病になる。
悪者になりたくないのだ。
そんなことを部屋の片隅でもやもやと悩んでいると、突然携帯のバイブ音が鳴り響いた。
ヴーヴーヴーヴー…
わたしの携帯はバイブにしていないので、タクヤのだ。
携帯を家に忘れて仕事に出てしまったようだ。
わたしはやれやれと思い、何気なくタクヤのカバンから携帯を取り出した。
すると、バラバラと何枚かの小さな紙が、カバンから一緒に落ちてしまった。
わたしはその紙を拾って、驚愕した。
「これ…。」
それは風俗の名刺だった。
タクヤはわたしと結婚した後もなお、風俗に通い続けていたのだ。
しかも、なんとその名刺はわたしが昔働いていたところだった。知り合いの名刺も何枚か発見してしまった。
わたしは驚いてしまって、暫く固まっていたが、だんだんおかしくなってきて、声にだして笑い転げた。
なんて馬鹿な男なのだろうか!
風俗行くのは良いとして、普通嫁が働いてた店に通うか?!
馬鹿だ!
本当馬鹿だ!
わたしは暫く誰もいない部屋で笑っていた。
そして笑いながらだんだん悲しくなり、一筋の涙が頬を伝った。
わたしはタクヤのいないところで、光一に抱かれ、
またタクヤもわたしのいないところで女を抱いていた。
ではわたしたちの関係はいったいなんなのであろうか。
なにを二人で守っているのだろうか。
誰も見ていないところで、必死に夫婦役を演じていて、まるで道化師だ。